CT逆投影法に基づく
光線重畳型ボリュメトリックディスプレイ

研究概要 (Abstract)
本研究では, 霧粒子を空間に充満させ,そこに空中像を浮かび上がらせるボリュメトリックディスプレイにおいて,複雑な形状を表示する技術を開発しました.従来の空中映像手法では再現が困難だった凹部形状や内部構造を,医療分野で用いられる CTスキャンの計算手法を逆転させて応用することで,物理的なスクリーンを持たない空間への空中像提示を実現しました.
背景と課題 (Background & Problem)

- 社会的背景:デジタルサイネージやパブリックビューイング,デザイン検討の場において,その場にいる多人数が特別な眼鏡やヘッドマウントディスプレイなどを装着することなく,同一の立体像を共有できる裸眼立体ディスプレイが求められています.
- 技術的課題:従来の手法では,光が空中像の内部を透過し,重畳する現象を考慮できておらず,本来は暗くあるべき空洞部分にも光が重なってしまう問題がありました.そのため,ドーナツ型のような中央に穴の空いた形状や,複雑な輪郭を持つ図形を正しく空中に描くことが困難でした.
着眼点とアプローチ (Proposal)
医療現場で体の断面を撮影するために使われる CT (Computed Tomography) の技術に着目しました. CTスキャンが全方向から取得したデータをもとに物体の断面図を計算するのに対し, 本研究ではそのプロセスを逆転させました. すなわち,空中に表示したい画像から逆算して, 各プロジェクターがどのような光を出せばよいかを導き出すため,逆投影法 (Back-projection Method) を採用しました. さらに, フィルター補正逆投影法 (FBP) を導入することで, 輪郭成分を鮮明にし, 従来手法では困難だった複雑な形状の空中像提示を可能にしました.
技術的な実装詳細 (Technical Details)
実験環境の構築 (Hardware)

360度全方向から光を投影するため, 大規模な実験装置を自作しました.
- 投影装置: 50台のプロジェクターを直径120cmの円環状に配置
- 制御系: 各プロジェクターを Raspberry Pi 5 で制御
- スクリーン: フォグマシンを用いて空間内に霧を充満させ, 光の散乱により像を可視化
投影画像生成アルゴリズム (Software / Algorithm)
表示したい元画像に対し, CTの画像再構成理論に基づく計算処理を実装しました.
- 投影データの算出: 元画像を各プロジェクター方向から見たときの投影データを計算
- フィルタリング処理: ぼやけを低減し輪郭を強調するため, 周波数領域でのフィルター処理 (Ram-Lakフィルター等) を適用
- 逆投影画像の生成: 計算されたデータを各プロジェクターの配置に合わせて変換する. 空間で重なり合った瞬間に正しい像を結ぶ各プロジェクターの投影映像を生成
実験結果と成果 (Results)


50台のプロジェクターを用いた投影実験を実施しました.
- 形状再現性: 従来手法では潰れてしまっていた地球儀の大陸形状や, 矢印マークのような記号において, 明瞭な輪郭が確認できました.
- 画質特性: フィルター補正を適用することで, 光の重なりによるボケが低減され, エッジの効いた空中像提示に成功しました.
今後の展望 (Future Works)
現在は平面的な断層像の提示にとどまっていますが, 今後はこの技術を三次元の立体像へと拡張します. 医療の計算理論と光の投影技術を融合させることで, SF映画のように, 何もない空間に複雑な情報やキャラクターが鮮明に浮かび上がる未来のディスプレイの実現を目指します.
