「Raden Code」
伝統工芸 × 画像解析:螺鈿で漆器の物語を伝える
1. 研究概要 (Abstract)
本研究では、伝統工芸品である漆器の装飾に使われる「螺鈿(らでん)細工」が持つ微細な構造を、人間の指紋のように識別する技術を開発しました。 従来のトレーサビリティ技術で必須だったQRコードやICタグを廃止し、「モノそのもの」を認証キーとすることで、工芸品の美観を損なわず、職人の負担も増やさない正当性を証明するシステムを実現しました。

2. 背景と課題 (Background & Problem)
• 社会的背景: 漆器業界では出荷額の減少が続いており、商品の背景やストーリーに価値を見出す「イミ消費」への対応が求められています。
• 技術的課題: 既存の追跡技術(QRコード、RFID等)には以下の欠点があり、伝統工芸品への適用が困難でした。
1. デザインの阻害: 人工的なタグ(QRコードやRFID)が作品の美しさを損なう
2. 職人の負担増: 新たな部材の埋め込みや管理が必要になる
3. 着眼点とアプローチ (Proposal)
螺鈿(アワビ貝の真珠層)は、成長過程で形成される「成長線」や、光の干渉による「構造色」を持っています。これらは人工物と異なり、一つとして同じパターンが存在しません。 本研究では、この「固有のテクスチャ」を個体識別のためのコード(Raden Code)として利用する手法を確立しました。これにより、新たなタグを付与することなく、既存の工程のままでトレーサビリティを実現しました。



4. 技術的な実装詳細 (Technical Details)
4.1 撮影環境の構築 (Hardware)
螺鈿は見る角度で色が変わる「構造色」を持つため、通常の照明では安定した特徴抽出が困難でした。そこで以下の撮影環境を構築しました。
• 照明: ドーム照明を使用し、均一な光を照射
• レンズ: テレセントリックレンズを採用し、画角による歪みを排除

4.2 認証アルゴリズム (Software / Algorithm)
撮影した画像から固有のID(Raden Code)を生成し、照合するアルゴリズムをC++(OpenCV)で実装しました。
1. 領域抽出 (ROI Extraction):ソーベルフィルタと大津の二値化を組み合わせ、背景と螺鈿領域を分離
2. 特徴抽出と量子化 (Feature Extraction & Quantization):
2次元離散フーリエ変換(2D DFT)を用いて周波数解析を実施し、位相情報(実部・虚部)の符号に基づき、4,096bitのバイナリコード(Raden Code)を生成

図6:螺鈿細工画像を量子化するまでの手順
3. マッチング (Matching):
生成されたコード間のハミング距離を計算し、類似度を判定
5. 実験結果と成果 (Results)
31種類の螺鈿細工を用いた認証実験を実施しました。
• 認証精度: 本人拒否率(FRR)0%、他人受入率(FAR)0%。EER(等価エラー率)0%
• 処理速度: 一般的なPC環境において、QRコード認証と同等の速度(1秒以内)での実装が可能

6. 今後の展望 (Future Works)
本システムは、職人が製作時に螺鈿を埋め込み、消費者がスマートフォン等で購入後にスキャンすることで、「いつ・誰が・どのような思いで作ったか」を知ることができるプラットフォームになります。 「金の伝統証紙」のような既存の認証制度をデジタル技術で補完し、伝統工芸のブランド価値向上に貢献します。

図8:螺鈿細工を用いたトレーサビリティーのシステム設計
7. 実績 (Achievements)
7.1キーワード (keyword)
Languages: C++, Python
Libraries: OpenCV
Hardware: Telecentric Lens, CMOS Camera, Dome Lighting
Methodology: 2D DFT, Image Processing, Biometrics/Artifact-metrics
7.2 学会 (conference)
- 山﨑裕貴, 中田崇行, ”螺鈿code:鮑貝真珠層模様の定量化,” 2021年電子情報通信学会総合大会, 2021年3月
- 山﨑裕貴, 中田崇行, ”Raden Code:螺鈿細工の個体識別におけるマッチングアルゴリズムの検討,” 2021年度電気・情報関係学会北陸支部連合大会, 2021年9月
- Y. Yamazaki and T. Nakata “Raden code: a study of matching algorithm for Raden based on phase information”, Proc. SPIE 12177, International Workshop on Advanced Imaging Technology (IWAIT) 2022, 121772J (30 April 2022)
